盤に記載されている演奏者
ジャケット裏面に使われている写真の別カット
朱里エイコがこれまでに発売したアルバムに収録された洋楽カバーを選りすぐって再録したものにアダモのカバー2曲を加えて発売された、洋楽カバーのベスト盤といったアルバムである。
面白いことに、ジャケットおよびライナーには「カーペンターズ、アダモほか世界のヒットソングを歌う」というあからさまにサブタイトルのような言葉が並んでいるだけで、「MY FAVORITE SONGS」というタイトルはどこにも見当たらない。これはレコード盤に貼付されているラベルのみに表記されているフレーズである。そのラベルでは、"Favorite"が"Favourite"というイギリス英語のスペルになっており、A面がSONGS、B面がSONGと表記が統一されていない。
後に発売されたアルバムの帯裏面のカタログや雑誌等の広告、またワーナー・パイオニアのレコード目録にはこのアルバムのタイトルが「MY FAVORITE SONGS(またはMY FAVORITE SONG)」と明記されているため、そちらを正式なタイトルとして表記することにした。
2011年に発売されたボックスセット「ワーナー・イヤーズ 1971-1979」のブックレットのディスコグラフィーでは本作を「MY FAVORITE SONGS」と表記している。
ところで、このアルバムは帯つきの中古品を目にした事がなく、また、年度内での値上げとシングルジャケットでの発売という点を不自然に思っていたところ、有力な情報が得られた。
ちあきなおみ『円舞曲』、発売当時のLP盤に帯がつかなかったのはオイルショックの影響だったとか…。
メーカーによっては封入歌詞カードをやめて裏ジャケへの印刷を復活させたりも。
(「ちあきの部屋」管理人ウシオ様のツイート(その1、その2)より)オイルショック(第1次)とは、第四次中東戦争(1973年10月)が引き起こした石油価格の高騰(1バレル $3.01→$5.12→$11.65)による世界的な経済混乱のこと。これによりレコード会社各社が原価を抑えるために、無駄なダブルジャケットをやめてシングルジャケットにしたり、帯を付けずに発売したというのは納得のいく話である。
日本国内では、石油価格高騰に伴って繁華街のネオンの消灯や、テレビの深夜放送の縮小など省エネルギーに対する取り組みが行われた。また雑誌や新聞などの紙資源の削減に端を発したトイレットペーパー騒動が有名。大阪の千里ニュータウンから瞬く間に全国に広まったこの騒動は、単にメーカーや小売店が在庫統制しただけというオチだった。
1964年11月に発売されたセカンド・アルバム「ADAMO Volume 2(邦題:アダモ・ドゥージェム~我らがアダモの前進)」の1曲目に収録されていた作品である。1963年の「Sans Toi Mamie」「Tombe La Neige」などの大ヒットによりベルギーの国民的歌手となったアダモの初期の代表作のひとつとなっている。
夜そのものに対する抽象的な恐れとも、夜を奔放な女性に見立てた愛の歌とも取れる作品で、"Je deviens fou(狂ってしまいそうだ)"と繰り返される魂の叫びが特徴。
朱里エイコは岩谷時子による日本語詞を歌っているが、男の狂おしい心情を表現した本バージョンとは別に、岸洋子などが歌っている女性視点による訳詞も存在する。
演奏クレジットから、前作にあたるアルバム「SUPER SELECTION TODAY」の収録候補だったものと考えられる。「雪が降る」「ヘイ・ジュテーム」と一緒に録音されたものだろう。
アレンジを担当した深町純は、1971年にデビューしたばかりのキーボード・シンセサイザー奏者で作曲家・編曲家でもある。彼のオリジナル曲は和物を扱うクラブなどで人気がある。また、錚々たる名優をキャスティングした実写版「火の鳥」の音楽や、「にがい涙(スリー・ディグリーズ)」「ペイパー・ムーン(大橋純子)」の編曲が知られている。
若き日の王妃パオラ
「夜のメロディー」と同じく、1964年11月に発売されたセカンド・アルバム「ADAMO Volume 2」に収録されていた作品で、アダモの最大のヒット曲のひとつである。
パオラとは、イタリア貴族の子女だったパオラ・ルッフォ・ディ・カラブリアのことで、2013年に退位したベルギー国王アルベール2世の王妃で、現国王フィリップの母親にあたる。1959年にリエージュ公アルベール王子と結婚しリエージュ公妃となり、その美貌と輝くような笑顔から"Sunshine Princess"と呼ばれたパオラ姫を讃えた本作は、彼女の出身地にちなんでイタリア語で書かれており、曲調もカンツォーネ寄りの作風になっている。
日本盤のシングルの解説によると――かねてからベルギー国王夫妻の前で歌を披露することを望んでいたアダモは、1963年に開かれた赤十字100年記念祭でその希望を叶えたわけだが、これを取り計らったのが公妃パオラということで、彼女に対する感動と賛美を込めてこの作品を作った――ということだ。
アダモはこの曲や、同じ年の「Vous Permettez, Monsieur?(邦題:一寸失礼)」の大ヒットでフランスでも不動の人気を得た。これまでに紹介した作品以外では、越路吹雪の歌唱で有名な「Le Mauvais Garçon(邦題:ろくでなし、または不良少年)」や、平和を謳った「Inch'Allah(インシャラー)」などが有名。ちなみに「インシャラー」を聴いた後に弘田三枝子の「バラの革命(作曲:いずみたく)」を聴けば、ニヤっとすることうけあいである。