オムニバスアルバム「レッツ・ゴー・'68」に使われた別カット
「イエ・イエ」はレナウンが発売したニット商品のCMで使われたもの。
公称では1万枚を売り上げたということで、朱里エイコ初のヒット・シングルということになるだろう。
レナウン「イエ・イエ」のCMは、電通の松尾真吾が手がけた当時としてはかなり斬新なCMだった。国内外で数々の賞を受賞し日本のCM製作において転機となった作品であるが、映像や音楽と共に重要なファクターであるはずの歌パートを担当した朱里エイコの名前が作品にクレジットされることはなかった。
音楽は小林亜星、CMの斬新な表現手法と共に強い印象のイラストを描いたのが小林亜星の妹である川村みづえ。レナウンが小林亜星を起用するきっかけになったのは、当時レナウンの宣伝部でアルバイトをしていた川村みづえの売り込みによるものだった。
レナウンのCMは、その年の春から日本教育テレビ(現・テレビ朝日)が放送する日曜洋画劇場内で30週に亘って放送されていたということだ。しかし、CD「小林亜星CMソング・アンソロジー」では、CMの音源収録は1967年7月2日と解説されている。この辺の前後関係はあまり良く判っていない。
ウラジーミル・ナボコフ原作の映画「ロリータ(1962年)」
イエ・イエ(yé yé)というレナウンの商品名は、1960年代にフランスやカナダのフランス語圏で流行したフランス版のロックやポップスである"イエ・イエ・ミュージック"から名づけられたもので、それ自体やそれらを取り巻くファッションなどからも大きな影響を受けている。
イエ・イエ・ミュージックの代表的歌手といえば、France Gall、Françoise Hardy、Sheila、Sylvie Vartanといったフレンチ・ロリータと呼ばれるアイドル達や、「マイ・ウェイ」のオリジナルを歌ったClaude Françoisなどが挙げられる。また、フレンチ・ロリータといえばBrigitte Bardot、Catherine Deneuve、Jane Birkin、Jean Sebergなどの女優達も忘れられない。
このブームのあまりの盛り上がりに、火付け役の1人とも言えるSerge Gainsbourg(作詞・作曲から歌手・俳優・映画監督までこなしたフランスの国民的英雄)ですら、自身の楽曲「Chez Les Ye-Ye(邦題:イエイエの時代に)」でその過熱ぶりを皮肉るほどだったようだ。
2015年11月、アナログ7inch盤(EP盤)がマスターテープからの最新リマスタリング音源でCLINCK RECORDSより復刻された。
これはレナウンが1967年のCMソングとして使用したものをレコード化したものである。レナウンの商品名は「yé yé」となっているが、レコードのジャケットでは「EYÉ EYÉ」と表記されている。また、JASRACには「イエ・イエNO.1」というタイトルでも登録されている。
現在はCMのバージョンとレコードのバージョンのどちらもCDで聴くことができる。これらは長さやアレンジが違うだけでなく、そもそも演奏者が違うとのことだが、よく聴いてもあまり違いが判らない。
CM版と確実に違う点は、朱里エイコのボーカルをダブル・ミックスしているところと、後半部分の男性コーラス部分を追加しているところである。
バックの演奏については井上宗孝とシャープファイブという説がある。ちなみに、シングルのジャケット裏面には演奏はレオン・オールスターズと書かれている。
井上宗孝とシャープファイブは、1963年に結成されたグループ・サウンズのバンドのシャープ・ホークス(安岡力也で有名)から、1965年にそのバックバンドが井上宗孝とシャープ・ファイブとして独立したもの。
当初はキングレコード在籍だったが、1967年には日本コロムビアに移籍した。名前が表に出なかったのは、この辺りの権利関係だろうか。その後1970年にはキャニオンレコードに移籍している。
「ワンサカ娘」だけを集めたコンピレーション
レナウンのCMソングといえば小林亜星による「ワンサカ娘」が良く知られているだろう。1961年にかまやつひろしによって初めて歌われて以来沢山のバージョンがあり、デューク・エイセス、ジェリー藤尾、Sylvie Vartan、弘田三枝子、久美かおり、ヒデとロザンナ、アン・ルイスなど多数のアーティストに歌われている。「ワンサカ娘」以前にはザ・ピーナッツ「レナウンの唄」というものもあったようだ。
「イエ・イエ」がヒットして以来いくつかのバージョンが作られ、1968年には久美かおり、1970年にはデ・スーナーズが歌を担当した。久美かおりは「ワンサカ娘」も歌っており、「レナウン~ワンサカ娘」というCDで聴くことができる。デ・スーナーズのものについては情報が全くなく、歌ったのが「イエ・イエ」なのか「ワンサカ娘」なのかは判明していない。
朱里エイコの「イエ・イエ」に話を戻すと、1990年代以降のバブル崩壊と前後して始まった60年代70年代リバイバルの時期にはこの曲を取り入れた作品が数多く発表されている。まずCMソングを集めたコンピレーションがこの頃から盛んに発売されるようになり、1993年にはコモエスタ八重樫やSTEREOTYPEが相次いでリミックス作品を発表した。これらについてはカバーを取り扱ったその他の情報(朱里エイコを歌った人たち)のページで詳細を掲載している。
その後2003年には、日本のヒップホップ・ミュージシャンの先駆者と言われているECDがこの曲をサンプリングし、「言うこと聞くよな奴らじゃないぞ」という作品を自主レーベルでリリースした。2005年発売のコンピレーション・アルバム「ECDのPRIVATE LESSON IN CONTROL」でもこの曲を取り上げている。
さらに2010年には、イギリスのLast RecordsというレーベルからSukebe Loop Udonというアーティストが「Puck Up」という4曲入りの作品を7インチアナログ盤でリリース。「プレイガールのテーマ」などを編集したものが収録されており、「イエ・イエ」は「No, No」という曲で収録されている。ジャケットは和柄の紙を貼り付けただけで、怪しさ満点の変態盤である。
Charlotte Moormanによる前衛パフォーマンス
また、アメリカの前衛芸術の中にもこの作品を見ることができる。時代を遡って、朱里エイコが「北国行きで」で人気歌手となったまさに1972年、韓国系アメリカ人であるナム・ジュン・パイク(Nam June Paik)が発表したビデオ・アートがそれである。ナンセンス系コラージュとでもいうべき作風のさきがけといったところだろうか、8分間に及ぶパフォーマンス作品のラストにバージョン不明の「イエ・イエ」のCM音源が使用されている。作品内ではその他に1968年版の「イエ・イエ」や1970年に水前寺清子が出演した「ペプシコーラ」などのCMが使用された。
この「Waiting For Commercials」という作品は、アメリカ人チェリストCharlotte Moorman、同じくアメリカ人画家Russell Connorとの共作となっている。また、パフォーマンスには実験音楽で有名なDavid Behrmanの名前もクレジットされている。 (情報提供:もしもしピエロ様)
→Waiting For Commercials (Nam June Paik/Videofilm Concertより)
福地美穂子・すぎやまこういち・森岡賢一郎のトリオによる3作目。リリース前のタイトルは「あまえていたい」だった。
エレキギターを多用したGS歌謡となっており、輪唱のようなおっかけや、2人でユニゾンをしているようなボーカル・エフェクトなど、アレンジテクニックを駆使した作品である。
イエ・イエのCMがヒットする以前の企画段階ではきっとA面予定だったのではないだろうか、と勝手に推測している。
この時期、作曲のすぎやまこういちは同じキングレコードの先輩で大スターだったザ・ピーナッツのシングルを数多く手がけている。前年の「ローマの雨」以降のことで、特に1967年8月発売の「恋のフーガ」は大ヒット曲となった。
こういうこともあってか、ザ・ピーナッツの楽曲を意識したかのような曲調になっている。自然と似てしまっているだけかもしれない。また、恣意的に付けられたのか、タイトルが「恋の~」となっている点にも注目したい。
似ているといえば、Aメロがジュディ・オングの「たそがれの赤い月」にもよく似ている。作詞はちあきなおみの「X+Y=LOVE」「四つのお願い」で知られる白鳥朝詠、作曲は「恋は神代の昔から」「アンコ椿は恋の花」などの大ヒット作をもつ市川昭介。前年にデビューした彼女の初期のヒット作で、本作より一足早い1967年7月に発売された。
この音源について。
シングル「イエ・イエ/恋のアングル」とこの音源を収録しているCD「朱里エイコ★イエ・イエ レイト60's東京モッド・ガール・コレクション(2)」は国会図書館の新館1階にある音楽・映像資料室で聴くことができます。資料の利用には許可申請が必要です。CDは廃盤になっていますが、AmazonやYahoo!オークションなどで比較的簡単に入手できます。