公演中の舞台からの失踪に始まった結婚騒動も年明けに結婚ということで決着がつき、めでたしめでたしといったムードの中で発売された。
朱里エイコのシングルの中で唯一、両面とも師匠であるいずみたくが作曲した作品となっている。
このシングルの発売から2週間ほど先行して発売されていた2枚組のアルバム「SUPER SELECTION TODAY」では、1枚目のA面の全ての作品がいずみたくによる新曲書き下ろしとなっている。
このシングルはアルバムからのシングルカットなのか、アルバムがこのシングルをフィーチャーしたものなのか、詳しい事情は判明していない。
「恋の衝撃」の山上路夫といずみたくのコンビによる作品である。
全体の曲調・コーラスの感じが、ブレイクする前の女性アイドル向けな感じの作品。そこは朱里エイコ、お得意のパンチ唱法でしっかりガナって味付けをし、単なるかわいい曲にしていない。
当時の週刊誌に面白い記事があったので引用する。この楽曲にそういう意図があったのかどうかは判らないが、微笑ましいエピソードである。
――「結婚後のはじめての新曲は"あなたの勝ちだわ"っていうんです、フフ……」と、朱里は、渥美さんの顔をうかがいながら、意味ありげに笑った。渥美さんはただニヤニヤ笑っていた(微笑 1974年1月26日号より)
穂口雄右は、「春一番」ほかキャンディーズへの楽曲提供で特に有名。それ以前はいくつかのバンドでオルガン・キーボードを担当したり、スタジオ・ミュージシャンとして活動していた。なかでも猪俣猛とサウンドリミテッドは、朱里エイコのバックバンドとしてしばしば登場している。
"そんなのないわ"というタイトルの通り、裏切られた女性の悔しい気持ちを描いた作品になっている。目の届くような近場で浮気をするのはマナー違反だ。
女の疑惑を表すかのような、不穏な雰囲気のピアノの和音やファズ・ギターの音が特徴。ジャズのような、ロックのような、それでいて歌謡曲といった不思議な楽曲である。
歌詞は、郷ひろみの作品を集中的に手がけて新境地を開拓していた時期の岩谷時子によるもので、彼女が朱里エイコのために新曲として作詞した数少ない作品のひとつである。
また、アルバム「SUPER SELECTION TODAY」でアダモのシャンソンを数多くカバーしたことが、彼女を起用するきっかけになったものと思われる。ただ、アルバムに収録された「雪が降る」の訳詞は、越路吹雪が歌った岩谷時子版ではなく、安井かずみが新たに訳したものである。
ちなみに、この時に収録を見送られた「夜のメロディー」「いとしのパオラ」「夢の中に君がいる」は岩谷時子の訳詞で歌われている。
岩谷時子は越路吹雪のマネージャーとして、作詞家・訳詞家として、日本の芸能界に多大な足跡を残してきた人だ。特に、この人の訳詞の素晴らしさは、再演などで別訳が当たった時に改めて分かる。「愛の讃歌」(Edith Piafの「Hymne a l'amour」)なんかがいい例だが、『ウェスト・サイド物語』が宝塚で再演(1998年)された時の「トゥナイト」の歌詞を聞いた時、あまりの違和感でそのほかのシーンを覚えていないほどだ。
池畑慎之介(ピーター)主演の『越路吹雪物語』で高畑淳子が岩谷時子役を好演したのも記憶に新しい。
東海林修は、60年代に洋楽カバーポップス作品を多数編曲し、多ジャンルの作曲活動のほかシンセサイザー奏者としても有名。1973年頃から朱里エイコのアルバムでアレンジャーとして多数手がけおり、中でも「AH SO!」の作曲が白眉。