失踪事件後にしばらく休養したのち、マネージャー・渥美隆郎氏との結婚問題でゴタゴタしている時期に発売されたシングルである。オリコン最高61位、ランキング登場11週、売り上げ3.5万枚、というそこそこのヒット作となっている。
スキャンダルの帳消しには清い結婚!とはまるで『La Cage Aux Folles(映画の邦題はMr.レディ Mr.マダム)』のような展開だ。このリメイク『The Birdcage』では政治家の父を持つお堅い家庭の娘とゲイカップルの家庭で育った息子との結婚問題に加えて、カトリック教とユダヤ教という宗教問題もクローズアップされている。熱心な創価学会信者だった朱里エイコが相手が入信するまで結婚しませんといったゴタゴタとかぶってあまりしゃれになってない(週刊平凡 1973年6月14日号より)。
紅白出場の翌日・元旦には結婚のために渡米した。
パンツ部分が紅白の衣装と同じ
「北国行きで」は紅白歌合戦で紅組司会の佐良直美に「上野発の北国行きの電車が…」と紹介されていたように"電車"で去っていくイメージだったのに対し、こちらは羽田から飛行機だ。
これまでの別れ歌との決定的違いは、「すべて尽くして愛した人の別れ言葉をかみしめて……」という歌詞の通り、男に捨てられた女を明確に描写している部分である。
この年の年末、2度目となる紅白歌合戦にはこの曲で出場した。
実はミニスカートが好きではなかった朱里エイコは、トレードマークのミニスカートではなくパンツルックで歌った。といっても、右足に大きくスリットを入れメッシュ素材で自慢の美脚を覗かせるという、チャームポイントはしっかりアピールするという凝った作りの衣装だった。
――煙草の煙やレモン・ティー
この特徴的な歌詞にあるように、1990年代までは飛行機の後部座席は喫煙席だった。公共スペースでの禁煙が徹底されている現在では考えられないことだが、肘掛のあたりに灰皿の名残が残っている機体に遭遇することがあるかもしれない。
また、機内サービスと言えば、お茶やコーヒーやコンソメスープ、もちろん紅茶もあっただろう。これをわざわざレモン・ティーとしたのには何かしらの理由があるはずである(単なる音にあわせた語呂合わせかもしれないが)。
日本でのレモン・ティーは、おそらく同じ頃に、紅茶にレモンを入れるのがおしゃれであるという女性誌の記事がきっかけで知られるようになったといわれている。
これはレモン消費量の増加を目論む、カリフォルニアの柑橘類産業界の作戦であった。かくして、レモン・ティーは西海岸の香りがするおしゃれな飲み物となったわけである。
その後の1970年代のサンキストに代表される柑橘類のアメリカからの輸入問題については、突っ込みすぎると別の話題になってしまうのでここまでに。
ちなみに、1975年頃になるが、太田裕美のアルバム曲や、サンハウスというロックバンドの曲に「レモン・ティー」というタイトルのものがある。
気になっているあの人にばったり出会ってから、デートでドライブ。
男のタバコにささっとマッチで火をつける女、きょう日そんな女は夜の世界以外では絶滅種だ。おませな女のはやる気持ちに、なんとなく微笑ましい気分になる。
ところどころで"イェイ"などのアドリブを入れて歌っており、ライブ感がある作品になっている。エンディングのスキャットになった途端に歌声が生き生きとしているような気がするのだが、これは気のせいだろう。
橋本淳は、筒美京平とコンビを組んでのヒット作が多い作詞家。筒美京平は大学の先輩ということだ。「ブルー・ライト・ヨコハマ」(いしだあゆみ)、「カナダからの手紙」(平尾昌晃・畑中葉子)、「真夏の出来事」(平山美紀)などの歌謡曲からザ・タイガースの代表曲などGSのヒット作品も多い。