失踪直後の記者会見の様子
郡山でのコンサート中に失踪するという事件を起こした渦中で発売されたシングル。
この失踪事件の原因は、度重なる交通事故の後遺症によるノイローゼ説、マネージャーとの結婚問題説、確執のあった父(幼い頃に亡くなったことにしていた)が客席に現れて平静をうしなった説など、色々な憶測が飛び交ったが、いまいちはっきりしないままうやむやになってしまう。
予定されていた新曲発表会(マネージャー・渥美隆郎氏との婚約発表も兼ねて開かれる予定だったらしい)もこの出来事のせいでお流れになってしまう。
前年から、父親がいないことや母親の経歴などを特集する雑誌記事が多数出ており、その辺からインスパイアされたのだろうか。出自の不幸をネタに同情を買ってもらおうなどというのは、あまり感心しない売り出し方のように思う。
前年末に紅白歌合戦に出場した勢いに乗ってイメージチェンジを図ったのか、千家和也・森田公一・馬飼野俊一を起用したものの、発売前にケチがついてしまい、これからという時に制作陣もさぞかし頭を抱えたことだろう。
歌詞の内容は、愛しい男と別れようとしている女が強い決意で新しい人生を歩もうとする、といった内容で、特に上記のようなキナ臭い内容ではない。
マイナー調だが、切れのあるホーンセクション、軽快なボンゴ、ワウギターのカッティングがノリノリな疾走感のある曲だ。
実は次回作で紅白歌合戦出場曲である「ジェット最終便」より売れており、オリコン100位以内には13週も登場していたという、もったいない作品である。
「ひまわり娘」や「乙女のワルツ」で有名な伊藤咲子は、「スター誕生」で「見捨てられた子のように」を歌ってテレビ放送の本選を勝ち抜き、グランドチャンピオン大会に出場。各プロダクションからスカウトされ、歌手デビューした。
千家和也は「あなたにあげる」(西川峰子)、「なみだの操」(殿さまキングス)、「バス・ストップ」(平浩二)、「わたしの彼は左きき」(麻丘めぐみ)、「そして、神戸」(内山田洋とクール・ファイブ)、「終着駅」(奥村チヨ)などヒット曲多数。阿木燿子・宇崎竜童コンビ以前の山口百恵の楽曲を担当したことでも知られている。
森田公一は「森田公一とトップギャラン」でボーカルとして活躍すると同時にヒット曲を数多く送り出した作曲家でもある。代表曲は「青春時代」。作曲家としては、「あの鐘を鳴らすのはあなた」(和田アキ子)が有名、アグネス・チャン、天地真理、キャンディーズ、桜田淳子など女性アイドルの曲も多く手がけている。
馬飼野俊一は作曲家の馬飼野康二の実兄で、有名曲のアレンジャーとして有名。作曲家としての代表作は「てんとう虫のサンバ」(チェリッシュ)。
「北国行きで」「心の痛み」を送り出した山上路夫・鈴木邦彦コンビによる作品である。
この作品で描かれる男女は、出会いや別れなどの不安が微塵もない、赤く燃える夕日のように絶賛燃焼中のカップルという、非常に珍しいパターンになっている。
また、ブラス・ロックのような迫力のあるイントロが特徴。どことなく同時代の青春歌謡的な雰囲気を持ちつつ、パンチのあるホーンセクションやギターのカッティングなどが加わってファンキーな曲になっている。
この頃は丁度、海外のポップスシーンで人気が確立していたChicagoやBlood Sweat & Tears、またChaseなどのブラス・ロックが日本で非常にウケていた時期に当たる。
翌月に発売されたサード・アルバム「EIKO SHURI・III」ではChicagoの「Saturday In The Park」を、音楽番組ではChaseの「Get It On(邦題:黒い炎)」をカバーするなど、確実にこれらの影響を強く受けていることがわかる。