※ラベル画像提供、恋と女とむせび泣き(twitter@IMJIN_RIVER)様
新譜告知のチラシ
前2作とは路線を大幅に変え、"ソウル艶歌の決定盤"という煽りで売り出されたもの。どちらも普通の歌謡曲で、ソウルの要素はあまり見当たらない。
咽び泣くトランペットに切ない女心……なんていうのはジャズ歌手を目指していた彼女のキャラと全く合っていない気がする。と言っても、大ヒット曲「北国行きで」のことを考えると、むしろ惜しいといったところだろう。
手を変え品を変え、彼女を売り出そうとする母・みさをやレコード会社の苦心が伺える。歌手本人と制作側の苦悩とは裏腹に、キングレコード時代のバラエティに富んだラインナップはこうして生まれたのである。
泣きのトランペットで始まるイントロに切ない女心を歌う歌詞は、今から見れば演歌寄りのベタな歌謡曲という風情がある。エンディングなどはGS歌謡的な要素が強いエキセントリックな作品で、歌謡曲時代への過渡的作品とも言えるかもしれない。
全編にチェンバロの単純な旋律が使われているのがもうひとつの特徴。この少し前にヒットしたポール・モーリアやレイモン・ルフェーヴルに代表されるムード音楽によく登場するイメージの楽器で(よく聴くとそれほど使われているわけではない)、そういったトレンドを取り入れてやろうという意気込みがあったのだろうか。
作曲は三木たかし。同じ年に森山良子の「禁じられた恋(作詩:山上路夫)」が大ヒットしており、この曲でも"バシィッ"っという効果音が多用されている。お気に入りの音だったのだろうか、演歌でよく使われるビブラスラップとは異なる音である。
また、この作品は数少ないなかにし礼による作品である。
この年のなかにし礼はレコード大賞歌唱賞を受賞した弘田三枝子の「人形の家」、奥村チヨの「恋の奴隷」「恋泥棒」、ピーターの「夜と朝のあいだに」や、翌年のレコード大賞を受賞した菅原洋一の「今日でお別れ」(再発売)など大ヒットを連発し、売れっ子作家として多忙を極めていた。
東大安田講堂占拠の学生排除、ベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)、西口フォークソングゲリラなど暗いニュースの多い世相を反映してか、とても重くて暗い雰囲気の曲になっている。
決して暗い曲ばかりだった訳ではないだろうと、オリコン年間ランキングで1969年のヒット曲を見てみるも、1位の「夜明けのスキャット」に始まって「ブルー・ライト・ヨコハマ」「恋の季節(1968年7月)」、この他に「恋の奴隷」「人形の家」「いいじゃないの幸せならば」など見事にマイナー調の曲ばかり。ぱっと見で明るい曲と判るのは水前寺清子の「三百六十五歩のマーチ(1968年11月)」ぐらいである。
ワーナー・パイオニア時代のシングル「窓あかり/星と女」で作詞を担当した山口洋子が朱里エイコに初めて歌詞を提供したもの。
歌謡曲路線ならむしろこちらのほうがA面にふさわしかったのでは、という気がする。
このような女性の書く繊細な心のひだは、男の書く女心=勝手な男に都合よく弄ばれる哀れな女とは一線を画すので、聞いていて嫌味がないように思う。
キングレコードの目録では、A面の「しのび泣きの恋」が「くらぶ圭三」のタイアップ曲と記載されている。しかし、盤のラベルではB面の「むかしの貴方」のほうに番組名が記載されている。どちらが正しいのかは判らないが、レコード盤の印刷を信用してB面をタイアップ曲とした。
「くらぶ圭三」とは、1967年10月から1969年9月まで東京12チャンネル(現・テレビ東京)で放送された音楽番組である。NHK出身の日本初のフリーアナウンサーで、レコード大賞の司会としてもおなじみの高橋圭三が司会を務めた。
CD「イエ・イエ」のライナーに書かれている作曲:山崎惟というのは誤植である。
この音源について。
シングル「しのび泣きの恋/むかしの貴方」とこの音源を収録しているCD「朱里エイコ★イエ・イエ レイト60's東京モッド・ガール・コレクション(2)」は国会図書館の新館1階にある音楽・映像資料室で聴くことができます。資料の利用には許可申請が必要です。CDは廃盤になっていますが、AmazonやYahoo!オークションなどで比較的簡単に入手できます。