両面とも世志凡太と森岡賢一郎のコンビが担当。これまでアレンジャーに徹していた森岡賢一郎が、初めて朱里エイコのために書き下ろした作品である。
中古レコードは滅多にお目にかかれないレアもので、かなりの高値で取引されている。
明るく弾ける若さといった面を表に出した「ハバナ・アンナ」に続くこのシングルは、180度路線を変えて、ダークなお色気路線といった感じだろうか。
レーベル移籍に際してレコード会社としても相当力が入っていた、というよりも、毛色を変えてどちらの路線が受けるのか手探りで様子を伺っている感がする。単に季節感の問題かもしれないが。
制作陣は朱里エイコの実力を買ってはいるものの、いまいちレコードのセールスがぱっとしない彼女をどう売り出そうか迷走していたという証言もある。
新譜ダイジェスト盤(昭和43年11月)
話は変わって、当時のラジオ等のメディア向け用途なのか、店頭販促用なのかは判っていないが、キングレコードから新譜ダイジェストというレコードが各方面に配布されていたようだ。
その昭和43年11月度版には、型番TOP-708(ここで紹介しているシングル)として「悪魔のトリコ(3分4秒)」「あしたがほしい(2分34秒)」の2曲が収録されている。
「悪魔のトリコ」はシングルの裏ジャケットの収録時間を照らし合わせるまでもなく「悪魔のとりこ」であることが判るが、サンプルの時点ではA面曲だったということが判った。
また、B面収録予定曲として収録されている「あしたがほしい」は作者不明。シロフォン?ローズピアノ?のアドリブがより夜らしさを感じさせるムード歌謡である。
後にシングルは「まぼろしの声」に差し替えられて発売され、この「あしたがほしい」という曲はお蔵入りとなった。
ちなみにこの曲はキングレコード時代の未発表曲音源を収録したCD「イエ・イエ レイト60's 東京モッド・ガール・コレクション(2)」にも収録されていない。
※再生する際は音量に注意してください。これは30秒の試聴版です。
ザ・ピーナッツのシングル。本作と同様、後ろにはスマイリー小原。
声のゲストミスターXとは、スカイライナーズのバンドマスターとして有名なスマイリー小原のこと。とにかく彼の声がとっても性的でいやらしすぎる。
この人物は、バンドの指揮中に歌手の後ろに映り込んで踊りだすといったような愉快な、悪く言えば"出たがり"な人物だったようだ。やり過ぎると紅白歌合戦の布施明と宮川泰のようになってしまう。
このスマイリー小原とスカイライナーズの専属歌手だったのが若い頃のしばたはつみである。彼女は翌年1969年、小川ローザの出演で有名な丸善石油(現・コスモ石油)のCMソングを歌っている。
バリトンサックスがよい味を出している。この曲のようなバリトンサックスが表に出たテレビ番組のテーマ曲があった気がするが、思い出せない。
バックにオルガンやサンタナが弾きそうな頽廃的なファズギターや、何の音かわからないがビヨーンビヨーンというバネの効果音のようなものがこっそり小さく入っていたりして、よく聴かないと豪華さや面白さが判らないかもしれない。
作家陣も彼女のポテンシャルを引き出そうと躍起になっていたか、こういう作り方が、玄人好み→素人受けが悪いといった構図を作っていたのかもしれない。売れる歌=流行歌とするならば、そもそもジャズやスタンダードを嗜好する彼女の音楽性からして一般受け路線から外れているとも言える。
オープニングの裏拍、GS的なエレキギターとドラムが特徴の歌謡曲。これも朱里エイコの歌に耳を傾けていると、聞き逃してしまいそうな感じのストリングのオブリガードや装飾的なハモンドオルガンの音色がかっこいい。
両面の作詞を担当した世志凡太は、作曲家・作詞家・俳優・コメディアンと多才な人物。原信夫とシャープ&フラッツのベース奏者というバンドマンとしての活動や、『てなもんや三度笠』への出演、フィンガー5のプロデュースなどが有名。1992年には浅香光代との結婚が話題になった(実際は入籍していないようだ)。
この音源について。
この音源を収録しているCD「朱里エイコ★イエ・イエ レイト60's東京モッド・ガール・コレクション(2)」は国会図書館の新館1階にある音楽・映像資料室で聴くことができます。資料の利用には許可申請が必要です。CDは廃盤になっていますが、AmazonやYahoo!オークションなどで比較的簡単に入手できます。