A面に伊藤アイコの「ラッキー・セブン」、B面に田辺エイ子の「ブルー・ポニー」を収録した若手新人のカップリング盤である。
ジャケットの英語表記はまさかの綴り間違いで「BULE PONY」。ビクターの目録では誤記を通り越して「プルポニー」と記載されている。そして裏ジャケでは「ラッキーセブン」「ブルーポニー」と2曲とも中点なしのタイトル表記になっていて、表記の統一などどこ吹く風といったユルさがたまらない。
当時のビクターでは一般の歌謡曲が"流行歌"と表現されているのに対して、このシングルのジャンルは"ホーム・ソング"と冠されている。ちなみに次の「三人三羽/だれだって一人じゃない」は"主題歌"である。
このレコードの存在は長らく、ビクターの目録のほか『ROCK&POPS プレミア・レコード図鑑 1954~79年』(菅田泰治著、シンコーミュージック刊、2001年9月)でしか確認ができず、キング・レコード時代の音源を集めたCD「イエ・イエ」のライナーノーツに記述されている"牧歌的な叙情歌だった"ということ以外にこのレコードの内容を知るすべがなかった。
この前後にビクターから発売された田辺エイ子(田辺エイコ)名義のレコードは、レア音源というだけでなく単身渡米以前の学生時代の活動を知るための貴重な資料ということになるだろう。
美少女といった感じの伊藤アイコ
A面を飾った伊藤アイコは1949年生まれ、劇団ひまわりの子役出身である。その後ジャズ喫茶でスカウトされて歌手として活躍するようになったようだ。1963年に"第二の雪村いづみ"としてデビュー、あどけない顔に長い三つ編み姿が印象的である。
後年、伊藤愛子・いとう愛子などの名前でもレコードを出している。マスプロ電工のCMソング「見えすぎちゃって困るのオ~」を歌ったことでも有名。
作詞のいちかわゆうぞうは唱歌や合唱曲や校歌などを多数手がける作詞家で、市川祐三という名前でも活動している。1996年には松村雄基主演のミュージカル・源氏物語の作詞も手がけているようだ。
セブンを連呼と言えばこの人、実は朱里エイコと同期(1967年放送開始)。
テレビ主題歌かアニメ主題歌かといった雰囲気のある軽快で明るい作品で、各冒頭とサビに男性コーラスがつくところや途中で急にスローテンポになるという不思議な展開が特徴である。
ラッキー・セブンにちなんで「7」に関係あるものをちりばめた歌詞が面白い。中にはパッと聴きでは難解な歌詞があるので解説すると……
――お江戸日本橋 七つにたてば
これは江戸時代の俗謡で、東海道五十三次の道中唄である「お江戸日本橋」の一つ目の上り唄からの一節。七つとは不定時法の時刻を表す。
――セブンティーセブンは サンセット
これは、アメリカで1958~1964年(日本では1960~1963年)に放送され大ヒットした探偵モノのテレビ映画「サンセット77(英題:77 Sunset Strip)」のタイトルをもじったものだろうか。
以上のように、伝統的なものからリアルタイムな事柄までを絡めた思いのほか深い歌詞になっている。
それに何と言っても、可憐な顔立ちからは似ても似つかない、そして10代半ばとは思えない太く大人のような伊藤アイコの声が聴きどころである。
▼アルプホルンや角笛による(昔のロッテのCMのような)旋律で「ブルーポニー」と繰り返すのどかな曲である。唯一楽器構成が変わる間奏のアコーディオン(?)の部分が特に牧歌的な部分と言えるかもしれない。前作「ぼくの子守唄」に引き続く子守唄的な、或いはハワイアンのような雰囲気も持ち合わせている。
B面の「ブラック・ルーム」は和モノファンに人気がある。
単純なだけに楽曲の構成自体も似ているのだが、中でも展開してからメインパートに戻るまでのメロディーが黛ジュンの「天使の誘惑」の一部分を思わせる流れになっている。
同曲は1968年5月に発売された黛ジュンの4枚目のシングル曲で、第10回レコード大賞でレコード大賞を受賞した大ヒット曲である。作曲を担当したのは「北国行きで」の鈴木邦彦。
気のせい程度なのだが、意図的か無意識かやや舌足らず的なかわいらしい発声が散見される。これは彼女の歌い方としては珍しい部類である。
2019年9月発売の「ビクターアイドル情熱レアトラックス<1960年代+α>」に「三人三羽」と共に収録された。
レーベルの枠を越えた初のオールタイム・ベストとして2015年発売の「リトル・ダイナマイト ベスト・オブ・朱里エイコ」でも割愛されたビクター時代の作品がCD化されるというのは快挙である。
この音源は現物を所持していません。
このレコードは国会図書館の新館1階にある音楽・映像資料室で聴くことができます。資料の利用には許可申請が必要です。