このシングルについて、ワーナー・パイオニアのレコード目録ではどの年もL-64とL-66の間が空欄になっており、本作「明日への願い(L-65R)」の記載が一切ない。
手元にある現物はいずれも見本盤なので、どのような事情があってそうなっているのか、このシングルが本当に発売されていたのか、発売後間をおかずして廃盤にでもなってしまったのか一切判らない。B面曲「愛のフィーリング」の権利関係あたりが怪しいが、これも憶測の範疇なので念のため。
ジャケット裏面では、このシングル以降演奏者のクレジットが表記されなくなっている。
ディレクターの大野良治は、GSバンドであるアウト・キャストでベースを担当していた大野良二のこと。アウト・キャストにはキャンディーズの作曲やプロデュースで有名な穂口雄右が在籍していた。
久々に愛に疲れた"去る女"を歌う。
ワウギターにシロフォン、時折入る打楽器はティンパニーだろうか?が軽快なノリの良い曲調の作品である。
ベンチャーズの作品が日本人に受け入れられたのと同様、アメリカ人ミュージシャンによる作品でありながら、歌謡ポップスとして全く違和感のない雰囲気になっている。
作曲を担当したHarvey Truittは、カーネギーホール公演で共演したフィリピン人のコメディアンThe Reycardsのバックバンドを率いていたミュージシャンである。また、Bee Geesのメンバー(バックバンドやスタジオ・ミュージシャンとしての参加だろうか)として活躍したこともあったようだ。(週刊ポスト 1976年10月22日号より)
アリゾナのスコッツデールの新聞では、カーネギーホール公演での出会いがきっかけで朱里エイコのバックバンドをやるようになったと紹介している。
ライブ盤「NOW ON STAGE」では彼のきれいな歌声をチラっと聴くことができる。朱里エイコはコンサートの中で、彼を"Harvey Truitt お兄ちゃま"と呼んで信頼を寄せていたことが窺える。
山川啓介は、「太陽がくれた季節」(青い三角定規)などの青春モノ、火曜サスペンス劇場のエンディング「聖母たちのララバイ」「家路」「橋」(岩崎宏美)、「Mr.ブルー~私の地球~」(八神純子)が有名な作詞家。他にもアニメ・戦隊モノの主題歌なども手がけており、多才。
オリジナルは、ブラジルのシンガーソングライターであるMorris Albertが1974年に歌ってヒットした「Feelings」で、朱里エイコ自身が訳詞を務めた作品である。
「愛のフィーリング」というタイトルはMorris Albertの日本盤につけられた邦題で、朱里エイコ版はこちらを採用している。また、なかにし礼が訳詩したハイ・ファイ・セットのバージョンは、英語をそのままカタカナ表記にした「フィーリング」というタイトルになっている。
これまでに、ラスベガスのショーなどでほぼ全て英語で歌ったものや、ラジオで歌ったごく一部を日本語にしたものなど、色々なバージョンの歌唱が残されている。本作の歌唱はそれらの集大成といえるものになるだろう。
ところで、Morris Albertの「Feelings」には更にオリジナルがあって、メロディーが少し異なるものの、1957年の映画『Le Feu aux Poudres』の中でDario Morenoによって歌われた「Pour Toi」(作詞:Albert Simonin/Marie-Hélène Bourquin 夫妻、作曲:Loulou Gasté)が本家本元のオリジナルである。後にこの作者であるLoulou Gastéが盗作としてMorris Albertを訴えて勝訴している。
Morris Albertが「Feelings」を発表して以来、1975年にフランス語版「Dis Lui」(Mike Brant)とスペイン語版「Sentimientos」(José José)、1976年にドイツ語版「File」(André van Duin)と日本語版「フィーリング」(ハイ・ファイ・セット)など、各言語でカバーされた。前述のようなケチがついてしまってはいるが、世界各国で人気のある作品となった。
馬飼野康二は過去にも朱里エイコの編曲等を担当した馬飼野俊一の実弟。「愛のメモリー」(松崎しげる)、「男と女のラブゲーム」(芦川よしみ・武田鉄矢)、「夏に抱かれて」(岩崎宏美)、「夏のせいかしら」(夏木マリ)辺りが有名か。その他ジャニーズアイドルの作曲、キャンディーズの編曲などで有名。